会社が他社の株式を保有していると配当金を受け取る場合があり、経理的には受取配当金として仕訳をきります。この受取配当金は、配当を出す企業の税引後の利益から分配されるものであるため、会社の売上や仕入れなどの営業取引とは異なる経理処理が必要になります。本記事ではその受取配当金の益金不算入制度や消費税、源泉税の取り扱いについてわかりやすいようにまとめています。
受取配当金の益金不算入制度、消費税、源泉税、仕訳のわかりやすいまとめ【計算方法】
受取配当等の益金不算入制度とは、法人が受け取る配当金に法人税を課さないために設けられている法人税法上の制度です。
<受取配当等の益金不算入制度の概要>
保有割合 | 益金不算入割合 | |
完全子法人株式等からの配当 | 100% | 全額 |
関連法人株式等からの配当 | 1/3超~100%未満 | 全額-控除負債利子 |
その他の株式等からの配当 | 5%以上~1/3以下 | 50% |
非支配目的株式等からの配当 | 5%未満 | 20% |
受取配当等の益金不算入制度の適用の流れについてざっくりいうと、配当(を出す株式)を4つの区分に分類して、分類ごとに益金不算入額を計算することになります。
受取配当金(株式)の分類【保有期間・保有割合】
受取配当等の益金不算入制度を適用する場合には、まず受け取った配当金を株式の保有割合に応じて4つの種類に分類します。
<配当金(株式)の区分>
・完全子法人株式等からの配当
・関連法人株式等からの配当
・その他の株式等からの配当
・非支配目的株式等からの配当
配当金を区分する場合は、受け取った配当を集計して、それぞれの配当金をそれぞれの区分に分けていきます。
<受取配当金の集計イメージ(区分前)>
配当金 | 区分 | |
A社 | 10 | ? |
B社 | 20 | ? |
C社 | 30 | ? |
D社 | 40 | ? |
E社 | 50 | ? |
F社 | 60 | ? |
G者 | 70 | ? |
<受取配当金の集計イメージ(区分後)>
配当金 | 区分 | |
A社 | 10 | 完全子法人株式等 |
D社 | 40 | 完全子法人株式等 |
F社 | 60 | 完全子法人株式等 |
G者 | 70 | 関連法人株式等 |
E社 | 50 | その他の株式等 |
B社 | 20 | 非支配目的株式等 |
C社 | 30 | 非支配目的株式等 |
それぞれの分類方法については以下の通りです。
完全子法人株式等とは?
完全子法人株式等とは、ざっくりいうとその会社の株式すべてを保有している場合のその株式のことを言います。
ただし、株式の保有期間が短い場合には、完全子法人株式等に該当しない場合があるので注意が必要です。完全子法人株式等の詳しい判定方法は以下の通りです。
<完全子法人株式等の判定方法>
・配当等の計算期間の全部を通じて継続して100%の保有割合株式
・計算期間とは、前回の配当等の額の支払に掛かる基準日の翌日から、今回の配当等の額の支払いに係る基準日までの期間
・1月~12月までの事業年度の配当を翌4月に支払った場合は、一般的には1月~12月が計算期間
・上記で計算期間が1年超になる場合は、今回の配当等の額の支払いに係る基準日前1年間が計算期間
関連法人株式等とは?
関連法人株式等とは、ざっくりいうとその会社の株式の1/3超~100%未満を保有している場合のその株式のことを言います。
ただし、株式の保有期間が短い場合には、関連法人株式等に該当しない場合があるので注意が必要です。関連法人株式等の詳しい判定方法は以下の通りです。
<完全子法人株式等の判定方法>
・配当等の計算期間の全部を通じて継続して1/3超~100%未満の保有割合の株式
・計算期間とは、前回の配当等の額の支払に掛かる基準日の翌日から、今回の配当等の額の支払いに係る基準日までの期間
・1月~12月までの事業年度の配当を翌4月に支払った場合は、一般的には1月~12月が計算期間
・上記で計算期間が6月超になる場合は、今回の配当等の額の支払いに係る基準日前6月が計算期間
その他の株式等とは?
関連法人株式等とは、ほかの区分(完全子法人株式等、関連法人株式等、非支配目的株式等)の該当しない株式を言います。イメージがしにくい場合には、保有割合 5%以上~1/3以下の株式と考えると良いと思います。
<その他の株式等の判定方法>
・他の区分(完全子法人株式等、関連法人株式等、被支配目的株式等)に該当しない株式
非支配目的株式等とは?
非支配目的株式等とは、ざっくりいうとその会社の株式の5%未満を保有している場合のその株式のことを言います。
5%未満に該当するかどうかの判定は、配当等の支払い基準日時点で判定します。非支配目的株式等の詳しい判定方法は以下の通りです。
<非支配目的株式等の判定方法>
・配当等の支払い基準日に5%以下の保有割合の株式
・配当等の支払い基準日とは、期末配当の場合には一般的にその配当に係る事業年度末日
・1月~12月までの事業年度の配当を翌4月に支払った場合は、一般的には12月末日が配当等の支払い基準日
受取配当金の益金不算入の不適用制度【短期所有株式等】
ここまで受取配当金の益金不算入の計算のために、保有する株式から受ける配当金を4種類(完全子法人株式等、関連法人株式等、その他の株式等、被支配目的株式等)に分類してきました。
受取配当金の益金不算入制度では、保有期間の短い株式から受ける配当、つまり配当金の権利確定日前後の短期間だけ所有していた株式から受ける配当については、受取配当金の益金不算入制度を適用できないことになっています。そのため、受取配当金の益金不算入を計算する際には、保有期間の短い株式(短期所有株式等)から受ける配当金を区別して、受取配当金の益金不算入の計算から除外する必要があります。
<受取配当金の益金不算入から除外される短期所有株式等からの配当>
短期所有株式等・・・配当基準日以前1か月以内に取得し、かつ、その配当基準日後2か月以内に譲渡した株式
この要件に該当する株式からの受取配当金は益金不算入制度の計算から除きます。
受取配当金の益金不算入額の計算
受け取った配当金を4つの区分し、保有期間の短い株式(短期所有株式等)からの受取配当金を除外したら、次は4つの区分ごとの益金不算入額を計算します。もう一度、益金不算入制度の概要で復習をしてみましょう。
<受取配当等の益金不算入制度の概要>
保有割合 | 益金不算入割合 | |
完全子法人株式等からの配当 | 100% | 全額 |
関連法人株式等からの配当 | 1/3超~100%未満 | 全額-控除負債利子 |
その他の株式等からの配当 | 5%以上~1/3以下 | 50% |
非支配目的株式等からの配当 | 5%未満 | 20% |
配当金の区分ごとの益金不算入割合に応じて、益金不算入額を計算します。
<受取配当等の益金不算入額の計算イメージ>
配当金 | 区分 | 益金不算入割合 | 益金不算入額 | |
A社 | 10 | 完全子法人株式等 | 全額 | 10 |
D社 | 40 | 完全子法人株式等 | 全額 | 40 |
F社 | 60 | 完全子法人株式等 | 全額 | 60 |
G者 | 70 | 関連法人株式等 | 全額-控除負債利子 | 70 |
E社 | 50 | その他の株式等 | 50% | 25 |
B社 | 20 | 非支配目的株式等 | 20% | 4 |
C社 | 30 | 非支配目的株式等 | 20% | 6 |
※控除負債利子は計算が煩雑なので、ここでは0としています。
これで国内の法人から受ける受取配当金の益金不算入制度の計算は完了です。
受取配当金の消費税区分【不課税取引】
受取配当金を受け取った場合の消費税区分は”不課税取引”になります。
No.6157 課税の対象とならないもの(不課税)の具体例
消費税は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡や貸付け、役務の提供(以下「資産の譲渡等」といいます。)が課税の対象となります。
(5) 株式の配当金やその他の出資分配金・・・・株主や出資者の地位に基づいて支払われるものであるからです。
消費税の区分には、取引ごとに4つの区分があります。そのうち、受取配当金は不課税取引に該当します。
<課税取引>
消費税の課税対象になる取引で、具体的には、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡や貸付け、役務の提供(以下「資産の譲渡等」といいます。)が課税の対象になります。
<免税取引>
本来は消費税の課税対象取引であるものの、特別な取り扱いで消費税の課税が免除されている取引のことで、輸出取引などが該当します。免税取引と非課税取引は似ていますが、消費税の計算上、取り扱いが違うので、免税取引と非課税取引は分ける必要があるのです。
<非課税取引>
消費税の消費に負担を求める税としての性質上や社会政策的配慮から課税の対象としないこととされている取引のことで、土地の譲渡、預金利子、社会保険料などが該当します。免税取引と非課税取引は似ていますが、消費税の計算上、取り扱いが違うので、免税取引と非課税取引は分ける必要があるのです。
<不課税取引>
不課税取引とは、そもそも消費税の課税の対象にならない取引で、課税取引に該当しない取引のことを言います。
受取配当金の仕訳【会計上は営業外収益】
企業が受取配当金の支払いを受けたときには、受取配当金(営業外収益)に計上する仕訳を行います。
<仕訳>
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
現預金 | 100 | 受取配当金(営業外収益) | 100 |
ただし、他の企業への投資を主たる事業としている企業の場合には、受取配当金を営業収益として、営業利益より上に表示するケースもあります。
受取配当金に係る源泉税と仕訳
企業が受取配当金を受け取る場合には、株式の区分により源泉税が徴収された税引き後の金額で入金されます。源泉税が差し引かれる場合の受取配当金の一般的な仕訳は以下のようになります。
<仕訳(源泉税あり)>
・配当金 100
・源泉税 20
・入金額 80 のケース
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
現預金 | 80 | 受取配当金(営業外収益) | 100 |
法人税等 | 20 |
内国法人からの受取配当金に掛かる源泉税の税率
受取配当金に係る源泉税の税率は、株式の種類によって異なります。
<内国法人の株式からの受取配当金に係る源泉税の税率>
・上場株式等の配当等の場合 20.315%(国税15.315%+地方税5%)
・上場株式等以外の配当等の場合 20.42%(国税のみ)
外国法人の株式からの受取配当金に係る源泉税の税率は、その外国法人が所在する国によって税率が異なりますので、その国ごとの税法や二国間租税条約を確認する必要があります。
米国法人からの受取配当金に掛かる源泉税の税率
日米租税条約は2019年に改正が入っており、以下の取り扱いになっています。
<米国の法人からの受取配当金に掛かる源泉税(租税条約の適用をあり)>
・親子間配当(持株割合50%以上):免税
・親子間配当(持株割合10%以上50%未満):5%
・ポートフォリオ配当:10%
租税条約による優遇を受けるためには、米国側への届け出・申請等の手続きが必要になります。
<米国の租税条約の適用を受けるための手続き>
・「Form W-8BEN-E」の提出
「Form W-8BEN-E」とは、日米租税条約の適用を受ける資格を有することの証明書類で、日本居住者が米国側に提出します。
・EIN(Employer Identification Number)の取得
EIN取得申請書Form SS-4を米国内国歳入庁(IRS)へ提出し、EINを取得します。
参考:ジェトロ-投資相談QA
まとめ 受取配当金の益金不算入制度、消費税、源泉税、仕訳をわかりやすく解説【計算方法】
受取配当等の益金不算入制度は実務でも頻出の論点なので、基本的な内容は頭に入れつつ、必要に応じて詳細を調べながら業務に向かうと良いですね。