2020年年初のカルロスゴーンの国外逃亡で話題になった日産自動車。1990年代後半から業績不振に陥り、カルロスゴーン元CEOの就任以降何度もリストラを実施してきました。本記事では、日産自動車の過去のリストラの対象人数や、大規模な従業員削減の第一歩となった「日産リバイバルプラン」の内容についてまとめています。
- 日産自動車のリストラ対象者、解雇人数まとめ【リーマンショックでの日本国内人数】
- 【1999年】日産リバイバルプランの内容 大人数をリストラ対象にした再建策
- リストラにより日産自動車を復活させたカルロスゴーン
- 【2008年】リーマンショック後のグローバルリカバリープランでのリストラ対象者、解雇人数
- 【2019年7月発表】解雇人数12500人のリストラ計画-カルロスゴーン日本逃亡による混乱
- 【2020年1月発表】解雇人数4300人のリストラ計画-対象者は事務系社員
- 【2020年4月発表】コロナウイルス下での解雇人数2万人のリストラ-対象者は欧米
- 企業がリストラを行うときの2つの方法【対象者の決め方】
- リストラ(解雇)を行うための条件【対象者決定には合理性が必要】
- リストラのメリットデメリット【リストラされた対象者のノウハウが流出】
- まとめ 日産自動車のリストラ対象者、解雇人数【リーマンショックでの日本国内人数】
日産自動車のリストラ対象者、解雇人数まとめ【リーマンショックでの日本国内人数】
日産自動車は日本を代表する自動車メーカーではありますが、過去には何度も経営危機を経験しており、そのたびにリストラによる固定費削減を行ってきました。日産自動車のリストラ策の主なものは以下の通りです。
日産リバイバルプラン(1998年~)・・・22900人を削減
1990年代後半の経営危機でカルロスゴーン氏が訪れた際に実施された再建策では、22900人がリストラ対象となりました。
グローバルリカバリープラン(2008年~)・・・20000人削減目標のリストラ
グローバルリカバリープランはリーマンショックを起因とする経営危機を脱するために計画された再建策で全従業員の約10%にあたる20000人がリストラ対象となりました。
2019年7月~・・・12500人削減目標のリストラ
23年3月期までに米国、メキシコ、インド、日本など世界14拠点で働く工場従業員計1万2500人以上を削減する計画。
2020年1月~・・・4300人削減目標のリストラ
2工場の閉鎖と、米国・欧州を中心にした事務系社員4300人以上の人員削減を検討していることが関係者への取材で明らかになった。
ではそれぞれのリストラ策の詳細について順番に見ていきましょう。
【1999年】日産リバイバルプランの内容 大人数をリストラ対象にした再建策
経営危機に陥っていた1990年代後半に経営危機に陥っていた日産にカルロスゴーンがやってきて実行されたのが日産リバイバルプランです。日産リバイバルプランは以下の3項目をコミットメントととして、1つでも達成できなかった場合は経営陣全員が辞任するとして、背水の陣で臨んだ再建計画でした。
<日産リバイバルプランのコミットメント>
①2000年度までに、黒字化
②2002年度までに、売上高営業利益率4.5%の達成
③2002年度までに、自動車事業実質有利子負債7000億円未満に
これら3つのコミットメントを達成するために、リストラをはじめとする様々な改革が行われました。
日産リバイバルプランでのリストラ対象人数
日産リバイバルプランでは、大幅なコストカットを行うため当時の全従業員の14%にあたる21000人を削減目標としてリストラが行われました。
<リストラによる人員削減目標>
99年時点の全従業員148000人のうち、14%にあたる21000人が削減目標。
※削減目標の内訳
内訳 | 人数 |
製造 | ▲4,000 |
国内ディーラー | ▲6,500 |
一般管理 | ▲6,000 |
事業売却による移動 | ▲5,000 |
開発 | +500 |
計 | ▲21,000 |
<リストラによる人員削減結果>
21000人を削減目標として行われたリストラでしたが、最終的には1999年から2002年までの3年間で目標を上回る22900人が削減されました。
年月 | 従業員数 | 累計削減人数 |
1999年3月 | 148,000 | – |
2000年3月 | 141,500 | 6,500 |
2001年3月 | 133,800 | 14,200 |
2002年3月 | 125,100 | 22,900 |
低稼働率の工場や事業所を対象にしたリストラクチャリング
日産リバイバルプランではリストラによる人員削減に伴って、稼働率の低い工場や販売店舗の閉鎖も行われました。
車両組立工場3箇所を閉鎖
・村山工場 2001年3月
・日産車体京都工場 2001年3月
・愛知機械港工場 2001年3月
ユニット工場(部品工場)2箇所を閉鎖
・久里浜工場 2002年3月
・九州ユニット工場 2002年3月
国内販売店舗 3005店舗→2650店舗 355店舗(12%)の閉鎖
国内販売会社 98社→80社 18店舗(18%)の閉鎖
日産リバイバルプランによるリストラクチャリングの結果
リストラをはじめとする大幅な構造改革を行った結果、未達であれば経営陣全員が退任とされた日産リバイバルプランのコミットメントはすべて達成されました。
①2000年度までに、黒字化
→ 2000年度に3311億円の黒字となり達成
②2002年度までに、売上高営業利益率4.5%の達成
→ 2000年度に4.75%で達成、2001年度には7.9%
③2002年度までに、自動車事業実質有利子負債7000億円未満に
→ 2000年度は9530億円、2001年度に4350億円となり達成と公表。
※一般的な実質有利子負債の計算式(借入金+社債-現預金)を用いて、決算発表資料から算出すると実質有利子負債は減っておらず達成状況に疑問が残ります。
参考:日産自動車<これまでの中期経営計画

リストラにより日産自動車を復活させたカルロスゴーン
日産リバイバルプランで大規模なリストラにより日産自動車を回復させたカルロスゴーンですが、その後、2018年には金融商品取引法違反で逮捕され、国外逃亡に至りました。彼の功績と功罪については、書籍も出版されていますので参考にしてみてください。
【2008年】リーマンショック後のグローバルリカバリープランでのリストラ対象者、解雇人数
日産リバイバルプランでどん底から立ち直った日産でしたが、その後リーマンショックにより再び危機に陥ります。2008年12月時点で、2008年度の営業利益見通しは▲1800億円と大幅な赤字の見通しとなりました。この苦境を脱するため「グローバルリカバリープラン」の名のもとに再び大規模なリストラ策と労務費削減の計画が発表されました。
<リストラ策>
日産の世界中の労働者数23万5000人のうち約10%にあたる20000人を削減
235000人(08年12月時点) → 215000人(10年3月)
1年強で▲20000人の削減
<労務費削減>
08年度の8750億円から20%削減して7000億円にする計画
・取締役報酬の10%引き下げ、
・全管理職の給与の5%引き下げ
・日本の時間外労働の30%引き下げ
【2019年7月発表】解雇人数12500人のリストラ計画-カルロスゴーン日本逃亡による混乱
カルロスゴーン元会長の逮捕により混乱、ブランド棄損や世界的な自動車市場の減速により、日産自動車の業績は大幅に悪化していました。
そんな中、2019年度4-6月期の営業利益が16億円と、四半期としては過去10年で最悪の水準となったことを受けて、西川社長がリストラを含む経営計画を発表しました。
<リストラ計画>
2018~2019年度に米国、メキシコ、インドなど8拠点で生産ラインを停止し、6400人を削減
2020~2022年度に6拠点で生産ラインを停止し、6100人を削減
合計して世界14拠点の工場系従業員12500人を削減
【2020年1月発表】解雇人数4300人のリストラ計画-対象者は事務系社員
2020年1月にに日産自動車は、前年7月に発表した12500人のリストラ計画とは別に、事務系社員4300人を対象に人員削減を行うことを発表しました。
2工場の閉鎖と、米国・欧州を中心にした事務系社員4300人以上の人員削減を検討していることが関係者への取材で明らかになりました。
【2020年4月発表】コロナウイルス下での解雇人数2万人のリストラ-対象者は欧米
2020年に入り、世界的にコロナウイルスのパンデミックが拡大すると日産に限らず多くの企業が工場の操業一時停止を余儀なくされました。業績の悪化が進む中、日産自動車では欧米を中心に2万人規模のリストラを実施することになりました。
・米国の3工場で働く 1万人
・スペインのバルセロナ工場 3千人
・その他 7千人
企業がリストラを行うときの2つの方法【対象者の決め方】
日産自動車では数万人もの従業員をリストラしてきましたが、会社が従業員をリストラしていく方法は大きく分けて解雇と退職の2種類があります。
①解雇
解雇とは使用者(会社)が労働者(従業員)に対し、労働契約の解除を一方的に通告することを言います。世間的な言葉でいうとクビです。
解雇は会社側の都合により、一方的に従業員を切り捨てる行為なので、解雇の実施には法律上厳しい制限が掛けられています。
②退職
退職は、上述の解雇とは異なり、労働者(従業員)の意志や会社との合意により、労働契約を解除することを言います。
リストラを行う際に(従業員と合意して)退職をしてもらうためには、退職金を積み増したり、転職支援を会社が行うなど、有利な条件を従業員に提示して、退職を勧めるケースが多いです。
では一般的なリストラのイメージに近い”①解雇”を行うためにはどのような法律上の制限が設けられているのでしょうか?
リストラ(解雇)を行うための条件【対象者決定には合理性が必要】
先ほど述べた通り、解雇は会社都合で一方的に従業員をクビにすることですので、あまり簡単にできてしまっては働く人たちは安心して働いていくことはできません。
労働契約法第16条では、以下のような規定を設け、合理的な理由なしに従業員を解雇することはできないと定めています。
労働契約法第十六条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
ではここで会社都合による一方的な解雇が認められてしまう「合理的な理由」とはどんなものなのでしょうか。
これは過去の裁判例などから、以下の4つの条件を満たす場合とされています。
① 人員整理の必要性があること
② 解雇を回避するための努力を尽くしたこと
③ 解雇する人員の選定が合理的であること
④ 労働者への説明、協議など、手続きを尽くしたこと
① 人員整理の必要性があること【リストラの必然性】
まず従業員の解雇を行うためには、解雇を行わなければならない理由があることが必要です。リストラの場合、たいていの理由は会社の業績悪化ですが、従業員の解雇以外の施策でもって、業績回復が見込めない状況であることが客観的に示す必要があります。
② 解雇を回避するための努力を尽くしたこと
①の理由とも似ていますが、従業員を解雇するためにはほかのあらゆる手段をとった結果、なお人員を削減しなければ状況が改善しない状況である必要があります。
③ 解雇対象者の選定が合理的であること
従業員を解雇するときには、会社からの評価が低かったり、今後も成長が見込めない社員から解雇をしていくのが通常です。この場合には、解雇する対象の従業員が合理的に選ばれている必要があります。そのため、「くじ引きで●人を解雇する」などというわけにはいかないのです。
そのため実際に解雇が行われる場合には、従業員の人事評価、年齢、勤続年数など、画一的な基準でもって人員の選定が行われるケースが多いです。
④ 対象者への退職勧告手続き等の妥当性
会社が選定して解雇することとなった従業員には、解雇の理由の説明なども含めて、適切な対応をすることが求められています。
特に解雇を行う際には、30日以上前までに解雇予告(解雇する旨を本人に告げること)を行う必要があります。この解雇予告については労働基準法でも規定されています。
労働基準法第第二十条(解雇の予告)
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
○2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
○3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
このように労働者を会社都合で切り捨てる行為は、法律上簡単にはできないことになっています。そのため、業績回復を急ぐ企業は、解雇というやり方だけではなく、希望退職を募ったり、退職金の積み増しキャンペーンなどを行うなどして、従業員の自発的な退職を促したりするのです。
リストラのメリットデメリット【リストラされた対象者のノウハウが流出】
会社や従業員にとって良くも悪くも多大な影響を与えるリストラ。リストラの実施には、それぞれメリットとデメリットがあります。
リストラを行うメリット
・人件費が削減できる
リストラを行う一番大きなメリットは人件費を削減することにより、利益が出やすい企業体質になることです。しかし、従業員を辞めさせることで人件費が削減できる一方で、企業に売上をもたらすのも従業員です。リストラは失敗すると、コストダウン以上の売上減少につながり、企業の再生に失敗することもあり得ます。
・使えない社員を輩出できる
日本社会では会社員は手厚く守られており、使えない社員であってもなかなか解雇することはできません。リストラにより使えない社員を輩出することができれば、使えない社員で浮いた人件費で新しい人を雇って、企業を活性化させることも可能になります。
リストラを行うデメリット
・社員の士気の低下
リストラにより社員を減らしていくと、残った社員の士気も低下します。リストラが行われている企業では、例え自分がリストラ対象になっていなくても「いつかは自分もリストラされるかも」と考え、集中して仕事に取り組めなかったり、転職を考えてしまうこともあります。
・長年培った知識やノウハウの流出(場合によっては競合他社へ流出)
従業員を切ることによる大きなデメリットはその従業員がこれまで培った知識やノウハウが流出してしまうことです。その会社にとって重要な製品、技術に関わっていた人が流出することになれば、企業の競争力の根幹を揺るがすことになりかねません。そうして会社を去った人たちは、競合他社に就職するケースも多く、そうなれば一気に競合他社が力をつけて自社のプレゼンスが下がる自体も想定されます。
まとめ 日産自動車のリストラ対象者、解雇人数【リーマンショックでの日本国内人数】
日産自動車では過去に何度もリストラ計画が発表され、実際に数万人という規模の人たちがリストラにより職を失ってきました。仕事をせずに高給を貰っていた中高年社員はやむを得ないかもしれませんが、リストラ策の混乱の中で会社の主力であった人たちも多く解雇されたはずです。
経営危機の中では会社が生き残るためにリストラがやむを得ないときもあるとは思いますが、リストラを実行する経営者には、社員一人一人にも生活があり守るべき家族がいるということを心にとめ、その罪悪感を抱えながら、再建策を実施しなければいけないと思います。