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自社株買いのルールとメリットデメリット【消却目的で株価ROEを上げる】

自社株買いのルールとメリットデメリット【消却目的で株価ROEを上げる】

この記事を書いている人

モチタケ

第二新卒、未経験職種という底辺転職を経験した後、スキル・経験を蓄積して大手上場企業の内定を獲得してきたジョブホッパー。個人~上場企業の経営管理、資産管理が専門領域。経験に基づく転職、副業、投資などのノウハウや、日々の気づきなどを発信しています。東京都在住。

保有資格:ファイナンシャルプランナー(CFP)、税理士試験(法人税法)、日商簿記検定1級、TOEIC900


本記事では、株式会社が行う自社株買いのルールや知っておきたいメリットデメリットについてわかりやすく解説します。

 

<記事の概要>

  • 自社株買いとは?
  • 自社株買いをするときの規制やルールは?
  • 自社株買いのメリットとデメリットは?
  • 自社株買いで株価が上がるって聞いたけどどうして?

 

最近、新聞やニュースで自社株買い(自己株式の取得)をする企業がよく報じられるようになりました。しかし、報道だけを見ていても「企業はなぜ自社株買いをするんだろう」「自社株買いってインサイダー取引じゃないの」など色々な疑問が出てくるのではないでしょうか。

 

本記事では、自社株買いについて知識のない方や、実務担当の初心者の方にもわかりやすいようにまとめてありますので、ぜひ最後までご覧ください。

 

  1. 自社株買いのルールとメリットデメリット【消却目的で株価ROEを上げる】
    1. 自社株買いとは
  2. 自社株買いを行うメリットデメリットと目的【株価への影響 効果】
    1. 株価を上昇させるため
    2. 株主への配当金支払いの負担を減らすため
    3. ストックオプションや従業員持ち株会などの制度を通じて付与するため
  3. 自社株買いで株価が上がる理由【ROE、EPS、BPS向上がメリット】
    1. ROE(自己資本利益率)が向上する
    2. EPS(一株あたり利益)とBPS(一株当たり純資産価額)が向上する
    3. 株の買い注文が増え、株価が上昇する
    4. 自社株買いは「株価が割安」という投資家へのメッセージ
  4. 自社株買いのデメリット【資金繰りの悪化・ルールや規制が厳しい】
    1. 自社株買いで資金繰り・財政状態が悪化
    2. 自社株買いのやり方には厳しいルール規制がある
  5. 自社株買いをした後の消却【一株当たりの株式価値向上メリット】
  6. 自社株買いの方法と規制ルール【複雑さはデメリット】
    1. 自社株買いの財源は分配可能額の範囲内
    2. 自社株買いの取得の決議
    3. 株主への通知(官報等での公告)
    4. 上場会社が市場を通じて自社株買いを行う時の制限
  7. 自社株買いルールと実務対応に関する書籍【実務担当者は必携】
  8. 自社株買いの実施企業・銘柄一覧リスト【ソニー、キヤノンetc】
  9. 自社株買いは英語で?【stock buy-back】
  10. 自社株買いの仕訳と経理処理【会計上のルール】
    1. 【自社株買い】自己株式の取得時の仕訳
    2. 自己株式の消却時の仕訳
    3. 自己株式の売却(処分)時の仕訳
  11. まとめ:自社株買いのルールとメリットデメリット【消却目的で株価ROEを上げる】

自社株買いのルールとメリットデメリット【消却目的で株価ROEを上げる】

自社株買いとは

ではまずはじめに「自社株買いってなんなの?」という疑問から見ていきたいと思います。自社株買いとは、株式会社が株式市場などから自社の株式を買い戻すことを言います。

 

そもそも株式会社は、設立時や設立後に資金が必要になった時に株主から出資をしてもらい(資金を出してもらい)、その対価として株式を発行しています。その企業が発行した株式を、その会社自らが株主から買い戻す行為を自社株買いを呼びます。

 

なぜ、株式会社はお金を集めるために発行した株式をわざわざ買い戻すようなことをするのでしょうか。

 

自社株買いを行うメリットデメリットと目的【株価への影響 効果】

企業が自社株買いを行う理由には以下のようなものが挙げられます。

 

<自社株買いを行う目的>

  • 株価を上昇させるため
  • 株主への配当金支払いの負担を減らすため
  • 自社株買いで購入した株式を自社の役員や従業員に、ストックオプションや従業員持ち株会などの制度を通じて付与するため
  • 自社で株式を保有して、市場で流通する株式を減らすことでM&A対策になる
  • 将来的にM&Aを検討しており、その際に株式交換などで使用するため

 

株価を上昇させるため

企業が自社株買いを行う理由の最たるものが株価対策(株価を上昇させるため)です。自社株買いを行うとなぜ企業の株価が上がるかについては、理由がいくつかありますので、まとめて後述します。

 

株主への配当金支払いの負担を減らすため

株式会社は株主から集めた資金で事業を行い、事業で稼いだ利益を配当として株主に還元するという仕組みになっています。配当金の支払いは義務ではないのですが、現代の法律上は株式会社の所有者・最終的な意思決定者は株主であり、その株主は少しでも多く配当金が支払うことを要求するため、会社としてはできる限り配当金の支払いに答えていかなければいけません。

 

配当金の支払いは、会社の事業運営上は資金の流出になるので、できる限り少ない方が望ましいのですが、自社株買いを実施すると配当金の支払い額を実質的に減らすことが可能です。理由としては、購入した自社株に対しては配当金を支払う必要がないからなのですが、わかりやすいように例を挙げてみてみましょう。

 

例えば、発行済株式数100株の会社があり、個人株主100人が1株ずつ保有していた場合、一株当たり配当が5円であれば、その会社は500円(5円×100株)の配当を支払わなければいけません。

 

この会社が個人株主20人から自社株買いで株式を買い取った場合は、一株当たり配当が同じ5円であったとしても、配当を支払わなければいけない株式が80株しかなくなるため、配当金の支払いを400円(5円×80株)で済ますことができるのです。

 

このように配当金の支払いが会社の資金繰り的に重荷になっている会社の場合には、自社株買いを実施することで、実質的な配当金の支払い額を減らすことができるのです。

 

ストックオプションや従業員持ち株会などの制度を通じて付与するため

企業の中にはストックオプションや従業員持ち株会などの制度で役員や従業員に自社の株式を持たせることで、より意欲的に働くインセンティブにしている企業もあります。どういうことかというと、ストックオプションや従業員持ち株会でもらった株式の価値はその会社の株価に依存するため、株式をもらった役員や従業員は仕事を一層頑張ってその会社の業績を向上させるメリットが生まれるのです。

 

ストックオプションや従業員持ち株会を通じて役員や従業員に付与する株式は、新株を発行して交付する方法と、自社株買いで取得した自己株式を交付する方法があります。新株を発行して交付する方法の場合には、1株あたりの株式価値の希薄化(※)が生じて既存株主に不利益が生じるため、自社株買いで取得した自己株式を役員や従業員に交付する方法を選ぶケースがあります。

 

※株式とは会社の一定割合を保有する権利です。発行済株式100株の会社の株式を1株持っていた場合、その会社の1/100を保有していることになりますが、この会社が新株20株を発行して発行済株式が120株になると、その株主のその会社の所有割合は1/120に低下してしまいます。これが株式価値の希薄化で、既存の株主には不利益な事象とされます。

 

自社株買いで株価が上がる理由【ROE、EPS、BPS向上がメリット】

さきほど自社株買いを行う目的の一つに株価を上昇させるためと書きましたが、自社株買いを行うとなぜ株価が上がるのでしょうか。

 

ROE(自己資本利益率)が向上する

ROE(自己資本利益率)とは、企業が持つ自己資本(≒出資者から集めた金額+過去に稼いだ利益)の金額あたり、どれだけの利益を稼いだかを示す指標で、ROEが高い企業、すなわち少ない自己資本でより多くの利益を稼ぐ企業が優秀とされています。例えば、会社に100万円出資して、毎年20万円の利益をあげる企業と、毎年30万円の利益を上げる企業があったとすれば、投資したい企業は当然後者になりますね。

 

このROEは以下の計算式により計算します。

 

<ROEの計算式>

ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100

 

自己資本とは、会社が株主から集めた資本や、事業活動で儲けた利益の積み上げのことを言います。会社が自社株買いをした金額は、会社が株主から集めた資本を払い出すことになるので、自己資本の金額が減ることになります。つまり、自社株買いを行うと、ROEの計算上の分母が小さくなるので、結果的にROEの数字が大きくなります。より少ない自己資本で利益をあげるようになったと言い換えることもできます。

 

ROEが高い企業、すなわち、より少ない自己資本でより多くの利益を稼ぐ企業は、投資家の間で人気が出る(=株の購入希望者が増える)ので、自社株買いは結果として株価の上昇につながるのです。

 

<自社株買いでROEが上昇し、株価が上がる仕組み>

  1. 自社株買いを行う
  2. 自己資本が小さくなる
  3. ROEが向上する
  4. 株の購入希望者が増える
  5. 株価が上がる

 

EPS(一株あたり利益)とBPS(一株当たり純資産価額)が向上する

自社株買いが株価上昇に繋がる理由の2つ目は、自社株買いがEPSとBPSと呼ばれる経営指標を向上させるからです。

 

EPSとは、一株当たりの利益のことで企業が稼いだ利益を株式数で割った数値のことを言います。一方、BPSとは、一株当たりの純資産価額のことで企業の純資産(資産から負債を引いた金額)を発行済株式数で割った数値のことを言います。EPSとBPSは、具体的には以下の計算式で計算します。

 

<EPSとBPSの計算式>

EPS=当期利益÷(発行済株式数-自己株式数)

BPS=純資産価格÷(発行済株式数-自己株式数)

 

自社株買いで購入した株式は、正式には自己株式と呼ばれており、自社株買いを行うとEPSとBPSの分母が小さくなります。そのため、自社株買いはEPSとBPSを上昇させる効果があります。

 

EPSが高い企業は一株あたりの利益が多いということであり、BPSが高い企業は一株当たりの純資産額が多いということになるので、投資家にとってはEPSやBPSが高い企業はそれだけ魅力的ということになります。

 

あなたがA社かB社の株を一株買おうと思った時に、一株当たり10万円の利益が出ているA社と、一株当たり3万円の利益しか出ていないB社であれば、当然A社の株を買いたくなりますよね。EPSやBPSが高い企業の株は相対的に購入希望者が増えることになるので、結果として株価の上昇に繋がるというわけです。

 

なお、EPSはEarnings Per Shareの略で、”Earnings”とは利益のこと、”Share”は株式の意味です。同様にBPSは、Book Value Per Shareの略で、”Book Value”が純資産額のことを意味しています。

 

株の買い注文が増え、株価が上昇する

自社株買いが株価上昇に繋がる理由の3つ目は、株の売買の受給が良くなる(買い注文が多くなる)ためです。

 

株式市場の売買は、売り手の「〇円で売りたい」という注文と、買い手の「〇円で買いたい」という注文がかみ合った時に成立し、株価とは直近でこの売り手と買い手の注文が成立した価格のことを言います。企業が株式市場を通じて自社株買いを行うと、その企業の株に対してたくさんの買い注文が入ることになりますので、相対的に売り注文より買い注文が増え、株価の上昇に繋がるわけです。

 

自社株買いは「株価が割安」という投資家へのメッセージ

また、企業が自己株式の取得をすることを発表することで、企業は投資家に対して「その企業の株価が割安である」「もっと株価は上がるはずだ」というメッセージを伝えることができます。

 

どういうことかというと、企業が自社株買いの実行を決めるのはその企業を運営している経営層・役員などです。企業の経営層・役員は、その企業の今後の業績や戦略についてもっとも事情をよく知る人物たちです。その経営層が自社の株式を購入することを決めたということは、今後株価が上がる材料を抱えていたり、その時点の株価が割安だとその企業の経営層は考えていることになります。その企業の事情を隅々まで知っている人たちがあえて株価が割高なときに自社株買いなどしないはずです。(株は安いときに買って、高いときに売れば儲かりますね。)

 

つまり、企業が自己株式の取得をするということはその会社の現在の株価がお買い得であることを示す投資家へのメッセージともいえるのです。そのため、自社株買いを行うことを発表した企業には、お買い得な株を購入しようと購入希望者が集まり、結果として株価が上昇しやすいという現象が起こります。

 

 

ここまで書いてきた自社株買いが株価上昇に繋がるポイントをまとめると以下のようになります。

 

<自社株買いが株価上昇に繋がるポイント>

  • ROE(自己資本利益率)が向上
  • EPS(一株当たり利益)、BPS(一株当たり純資産額)が向上
  • 株の買い注文が増える
  • 株価が割安だというアナウンス効果がある

 

自社株買いのメリットと、自社株買いが株価の上昇に繋がるという点はお分かりいただけたでしょうか。

 

自社株買いのデメリット【資金繰りの悪化・ルールや規制が厳しい】

自社株買いで資金繰り・財政状態が悪化

自社株買いは株価の上昇に繋がるなどのメリットがある一方で、デメリットもあるためいつでもいくらでも実施できるものでもありません。

 

自社株買いの最も大きなデメリットは、企業の資金繰りの悪化です。自社株買いでは、会社の資金を使って株式市場などから自社株を買い取ります。そのため、会社の現預金残高が少なくなり、資金繰りは悪化します。

 

資金繰りが悪化しすぎると会社の事業運営に支障がでたり、株主に配当を出せなくなったりするので、自社株買いは現預金残高に余裕のある会社でないと実施はなかなか難しいですね。

 

自社株買いのやり方には厳しいルール規制がある

自社株買いはインサイダー取引と深く関係してくる取引で、会社の事情を最もよく知るその会社の当事者がその会社の株式の買付を行う行為です。もし、自社株買いはルールや規制がなくいつでも自由にできてしまうと、その会社の人たちは自社の内部情報をもとに株の有利な売買がいくらでもできてしまうことになります。

 

自社株買いを実施するときに守らなければいけないルールについて詳しくは後述しますが、自社株買いの内容を事前に告知したり、実際の売買の注文を決められたやり方で出さなければいけなかったりします。企業がこのような取引を行うためにはそれ相応の準備が必要で、社内に専門的な知見を持つ従業員が足りなければ、公認会計士や弁護士などの外部リソースを使う必要があります。そういった意味では自社株買いは手間のかかる取引で、場合によっては自社株買いの準備や対応にコストもそれなりに掛かってきます。

 

自社株買いをした後の消却【一株当たりの株式価値向上メリット】

企業は自社株買いにより購入した自己株式をそのまま保有し続けるほか、市場で再売却をしたり、消却をしたりすることができます。このうち、消却とは保有している自己株式を消滅させることを言います。企業が保有している自己株式の消却を行うと、発行済株式数が少なくなるため、一株当たりの価値が上昇して株価が上がりやすくなります。

 

株式会社とはそもそも、株主が株式の保有を割合に応じてその会社を保有しているという法的体系を取っています。例えば、発行済株式数100株のA社があった場合、A社株式1株を保有する株主Bは、A社の1/100相当を保有しているということになります。ここでA社が自己株式20株を消却すると、発行済株式数は80株になり、株主BはA社の1/80相当を保有できることになります。株主Bさんとしては何もせずに、保有する1株の価値が上がりましたね。このように自己株式の消却は株主が保有する株式の価値を上げることになるので、株主にはありがたい行為(株主還元)と認識されています。

 

<自己株式の消却の効果>

一株当たりの価値(会社の保有割合)が上昇して株価が上昇する

 

自社株買いの方法と規制ルール【複雑さはデメリット】

自社株買いは、もともとは以下のような理由によって商法で原則禁止とされている取引でした。

 

<自社株買いが原則禁止となっていた背景>

  • 自社株買いは会社の資本の維持を妨げる
  • 特定の株主に利害が発生する恐れがある
  • インサイダー取引や株価操作に利用される
  • 会社の支配する目的で利用される恐れがある

 

自社株買いは、その会社の内部情報を知るものが直接株の売買を行う行為なのでこのような懸念が出てくるのはある意味当然と言えます。それが2001年の商法改正時に経済界からの要請などによって、自社株買いが原則解禁されることになりました。

 

しかし、自社株買いは現在でも様々な法律が絡む取引であり、規制やルール、手順を守って買付を進めることが求められています。一般の人がニュースで耳にすることも多い、上場企業が株式市場を通じて自社株買いを行う場合のルールの概要について以下で解説したいと思います。

 

自社株買いの財源は分配可能額の範囲内

自社株買いが無尽蔵にできてしまうと会社の資金繰りが悪化して、既存の債権者に不利益が生じる可能性があることから、自社株買いに使える財源は法律で制限されています。

 

自社株買いに使える財源は「分配可能額」の範囲内とされていて、この「分配可能額」とは株式会社が株主への配当に使える金額と同様です。会社の配当も、自社株買いと同様に、無尽蔵にできてしまうと会社の資本を棄損することになるので、一定の制限が設けられているというわけです。

 

自社株買いや株主への配当に使える「分配可能額」の計算は非常に複雑なので正確な計算方法は割愛しますが、大まかには以下の計算式で計算します。

 

<自社株買いに使える財源である分配可能額の計算>

分配可能額≒その他利益剰余金+その他資本剰余金-自己株式の簿価

 

自社株買いを行おうとする場合には、まず分配可能額を計算して、どれくらいの金額規模で自社株買いができるのかを計算する必要があります。

 

自社株買いの取得の決議

自社株買いができる財源がどれくらいか把握したら、自社株買いを会社の意思決定機関で決議する必要があります。自社株買いは企業にとって重要な取引であるため、正式なルートで実行を決めなければいけません。具体的な決議方法は以下の通りです。

 

原則的な決議方法(株主総会決議)

自社株買いの意思決定は、原則的に株主総会の普通決議で、以下の事項を決議します。

 

<株主総会の普通決議で決議する事項>

  • 取得する株式の数(株式の種類と種類ごとの数)
  • 株式取得と引換えに交付する金銭等の内容及びその総額
  • 株式を取得することができる期間(1年未満の期間)

 

なお、株主総会の普通決議とは、株主総会で何かの意思決定をするときの決議方法のひとつで、株式の議決権総数の過半数を持つ株主が株主総会に出席し、出席した株主の議決権の過半数が賛成することでされる決議のことを言います。

 

その他の決議方法(取締役会決議)

自社株買いの実行に係る決議は原則的には株主総会で行わなければいけませんが、株主総会はすべての株主が関係する意思決定機関のため気軽に開催するわけにもいきません。その場合には、会社の定款に「取締役会決議により自己株式を取得することができる」旨を定めておくことで、取締役会決議によって自社株買いの決議をすることができます。

 

株主への通知(官報等での公告)

自社株買いの実行を決議したら、その決議内容を株主に通知する必要があります。

 

<株主に通知する事項>

  • 取得する株式の数(株式の種類と種類ごとの数)
  • 株式取得と引換えに交付する金銭等の内容及びその総額
  • 株式を取得することができる期間(1年未満の期間)

 

なお、上場会社の場合には、公告をもって代用することができるとされています。

※「公告」とは、官報への掲載などの方法で、特定の利害関係者に限らず広く会社の情報を公開することをいいます。

 

<自社株買いに係る公告の例>


 

自己株式取得事項の公告

20XX年X月 XX 日

各 位

東京都千代田区丸の内1-1-1

株式会社 ○○

代表取締役△△△△

当行は、20XX 年X月 XX 日開催の取締役会において、会社法第 459 条第 1 項第 1号の規定による当社定款第 XX 条第 X 項の定めに基づき会社法第 156 条第 1 項各号
の事項を決議したうえで、会社法第 157 条の規定に基づき下記の内容で自己株式を取得することを決議いたしましたので、会社法第 158 条に基づき下記のとおり公告いたします。

(1) 取得する株式の種類

普通株式

(2) 取得する株式の総数

XXX 株

(3) 株式1株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及び額

XXX 円

(4) 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額

XXX円

(5) 株式の譲渡しの申込みの期日

XXXX 年X月 XX 日


 

上場会社が市場を通じて自社株買いを行う時の制限

自社株買いを行う準備が整ったら、株式市場を通じて自社株買いを実施していきます。実際に自社株買いを実施するにあたっても、相場操縦等の不正が行われないよう以下のルールに沿った株式買付を行わなければいけません。

 

<自社株買いのルール>

  • 1日に2以上の証券会社を通じて買う付けが行われないこと
  • 株式市場終了直前の30分間以外の注文は不可
  • 注文時の高値を上回る注文を行ってはならない
  • 寄り付きの注文は前日の終値以下で行う
  • 1日の買付数量は、直前4週間の1日平均売買高の25%以内など一定の数量以内とする

※上場等株券の発行者である会社が行う上場等株券の売買等に関する内閣府令

 

自社株買いを行うには非常に多くのルールがあることがお分かりいただけたかと思います。実際に上場企業が自社株買いを行う際には、意思決定を行う役員、法務部門、経理財務部門、IR部門など多くの職員が対応にあたります。

 

自社株買いルールと実務対応に関する書籍【実務担当者は必携】

会社の実務担当者として自社株買いを実施する場合には、詳細な法体系をカバーする必要があります。自己株式の実務処理では以下の書籍が有名ですので、実務担当者は手元に置いておくと良いと思います。

こちらはそれほど新しい本ではありませんが、理士法人山田&パートナーズによる出版の本で必要な情報が分かりやすく網羅されていますので、比較的読みやすいと思います。

 

自社株買いの実施企業・銘柄一覧リスト【ソニー、キヤノンetc】

自社株買いはアメリカを中心にした株主還元意識の高まりを受けて多くの企業が実施しています。自社株買いの実施企業と金額の一例を掲載しておきます。

 

<自社株買いを発表している企業>

会社名自社株買いの期間金額規模
NTTドコモ2019年5月7日~2020年4月30日3000億円
NTTドコモ2018年11月1日~2019年3月31日6000億円
NTTドコモ2017年10月27日~2018年3月31日3000億円
NTTドコモ2016年2月1日~2016年12月31日5000億円
NTTドコモ2014年4月26日~2015年3月31日5000億円
ソフトバンクグループ2020年3月16日~2021年3月15日5000億円
ソフトバンクグループ2019年2月7日~2020年1月31日6000億円
ソフトバンクグループ2016年2月16日~2017年2月15日5000億円
ソフトバンクグループ2015年8月7日~2016年3月31日1200億円
日本電信電話2019年8月7日~2019年9月30日3000億円
日本電信電話2019年5月13日~2019年7月31日2500億円
日本電信電話2018年11月7日~2019年3月29日1500億円
日本電信電話2018年2月22日~2018年6月30日1500億円
三菱商事2019年5月10日~2019年5月8日3000億円
ソニー2019年5月17日~2020年3月31日2000億円
ソニー2019年2月12日~2019年3月22日1000億円
伊藤忠商事2019年6月12日~2020年6月11日700億円
伊藤忠商事2019年2月6日~2019年6月30日1000億円
伊藤忠商事2018年12月5日~2019年2月5日300億円
キヤノン2020年2月26日~2020年5月27日500億円
キヤノン2019年5月10日~2019年7月31日500億円
キヤノン2017年6月1日~2017年7月14日500億円
花王2019年5月7日~2019年6月21日500億円
KDDI2019年5月16日~2019年12月23日1500億円
KDDI2018年5月11日~2019年3月22日1500億円
KDDI2018年2月1日~2018年3月23日500億円
KDDI2017年5月12日~2017年9月22日1000億円
KDDI2016年5月13日~2016年9月23日1000億円

 

自社株買いは英語で?【stock buy-back】

自社株式は英語でtreasury stockと言います。treasury(宝物) stock(株式)という直訳になりますね。関連する英語をいくつかご紹介します。

 

【名】自社株

treasury stock

 

【名】自社株買い

stock buy-back

share repurchase

stock repurchase

purchase of treasury stock

acquisition of treasury stock

 

【動詞】自社株買いをする

acquire treasury stock

purchase treasury stock

 

【名】自社株の処分

disposal of treasury stock

sale of treasury stock

 

自社株買いの仕訳と経理処理【会計上のルール】

自社株買いを行った企業の経理処理についてもざっくり解説をしておきたいと思います。自社株買いに係る経理処理は、自己株式の取得時、再売却時(処分時)、消却時の3つの処理を覚えておく必要があります。他社の有価証券を取得する場合とは異なる処理が必要になるというのがポイントですね。

 

【自社株買い】自己株式の取得時の仕訳

<設例>

自己株式を100円で購入し、購入手数料20円とともに、証券会社に120円を支払った。

自己株式100現金120
営業外費用20

 

<解説>

・取得した自己株式は、取得原価をもって自己株式勘定に計上します。

・自己株式の取得に関する付随費用は、営業外費用に計上します。

・自己株式を購入する場合は約定日ではなく、決済日に計上します。

※自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針-5

 

自己株式の消却時の仕訳

<設例と仕訳>

自己株式を100円で購入し、購入手数料20円とともに、証券会社に120円を支払った。

その他資本剰余金100自己株式100
営業外費用20現金20

 

<解説>

・自己株式を消却した場合には、消却手続が完了したときに、自己株式の帳簿価格を減額し、同額をその他資本剰余金から減額します。

・自己株式を消却したときの付随費用は、営業外費用に計上します。

 

自己株式の売却(処分)時の仕訳

<設例と仕訳①>

100円で購入していた自己株式を80円で売却した。これに伴い、売却手数料10円を支払った。

現金80自己株式100
その他資本剰余金20
営業外費用10現金10

 

<設例と仕訳②>

100円で購入していた自己株式を80円で売却した。これに伴い、売却手数料10円を支払った。

現金120自己株式100
その他資本剰余金20
営業外費用10現金10

 

<解説>

  • 自己株式を売却(処分)したときの差益は、その他資本剰余金に計上します。
  • 自己株式を売却(処分)したときの差損は、その他資本剰余金に計上します。
  • 自己株式の売却(処分)したときの付随費用は、営業外費用に計上します。

 

まとめ:自社株買いのルールとメリットデメリット【消却目的で株価ROEを上げる】

企業が自己株式を取得する目的についてご理解いただけましたでしょうか。自社株買いのメリットデメリットや規制ルールの背景について知っておくと、ニュースがより深く理解できますね。株式投資を行う方や企業の経理担当の方はとくに知っておいて損のない知識になるかと思います。

 

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